領域概要
概要
本研究領域では『進化+エレクトロニクス』の融合型研究の造語として『進化トロニクス』の基礎学理を創出することを提案する。ここで『進化』とは、環境や状況に応じて最適な構造へ変化するなど、いわゆる生命が自律的に最適化することで機能を獲得し進化するプロセスを物質やデバイスへ拡張した新たな概念と定義する。本定義を前提に、学術変革領域『進化トロニクス学』では従来の設計図をもとに構築するエレクトロニクスの概念から、自己秩序化の原理に則った設計図がなくてもできるエレクトロニクスという新たな学理を創る。生物が環境に適応する形で進化してきたように、電子デバイスが環境や状況に応じて設計図無しで変化そして進化する、これまでの電子デバイスやバイオエレクトロニクスでは考えも及ばなかった全く新しいシステム・コンセプトを学術として体系化させることを目的とする。これまでの電子デバイスは、目的・仕様に合った構造・機能を設計し、これにより近代の最先端技術を成し遂げてきた。トランジスタの微細化技術の限界、資源の枯渇、消費電力の増大など多くの課題が存在している状況において、本エレクロニクス分野が更に発展していくにはこれらの課題を解決するブレイクスルーが必要不可欠である。その中、2000年頃からバイオとエレクトロニクスの融合による新しい分野「バイオエレクトロニクス」の研究が盛んになってきた。本分野は細胞や組織と電子デバイスの界面を上手く制御、最適化することで生体の活動状況を電気信号で計測する、又は生体成分から電気的な発電を行う等、日本国内外で注目を浴びてきた。しかしこれらも従来のエレクトロニクス同様、目的・仕様に合った設計を行い、一度作製してしまうと機能を変化させることは出来ない。この無機質な機能の固定は、環境適応性や柔軟な思考を有する人を含む生物とは大きくかけ離れている。もしこの生物が持つ適応性や柔軟な思考を電子デバイスにも適用できれば、将来的には環境に応じたデバイス変化により、作製するデバイス数の低減による材料削減や低消費電力化、さらにこれまで実現できなかった新たな機能創出へと繋がることが期待できる。この進化するデバイスの学術創出、そして応用実現こそが本領域『進化トロニクス学』の目指すゴールである。
総括班
トップダウン・ボトムアップの両ステアリングにて『出る芽をとことん伸ばす』研究方針で各班での主体性を重視する。まず総括班内での役割分担を決め、代表のトップダウンで領域を円滑に推進し成長させる。ボトムアップにて出てきた各計画研究の成果から『進化トロニクス学』へと発展させる舵取りを総括班での議論を踏まえ代表が方向性を決定する。また計画研究の各班会議による有機的な情報共有及び議論を年3回以上実施することで、成果が出しやすい環境作りを心掛ける。目標は異分野融合による全く新しい学問領域の創出であり、既に1つの計画班は異分野の研究者の融合研究提案とした。また班間融合や他領域分野との協調も重要である。そこで領域会議を総括班会議前後に年3回以上実施することで、お互いの成果を共有し、更に融合へ向けた議論を行えるように連携体制を整える。加えて他学術変革領域とも交流することで協調し互いに成長する。また若手育成にも力をいれ、将来的には日本発の世界標準の構築、そして本提案学問におけるノーベル賞が輩出できるような基礎から応用までを網羅した領域へと発展させる。
A01班「反応制御」
分子化学、電子工学、物性物理、生物物理学、情報科学を駆使して、状態の自己フィードバック機構を内在した「時間発展する電子物質や電子デバイス」を創出する。従来まで一義的に状態が決定され、その常識の元に利用されてきた電子材料に対して、多様性や自発性、環境へ応答し続ける新たな物質観―物質における進化―の基礎的な概念の確立を目標とする。
A02班「分裂制御」
生物学的な手法による人工細胞膜の分裂・成長を制御するシステムに、電気・光等の刺激による分裂誘導と分裂後の配列・形態を制御するデバイスを融合し、人工細胞膜から人工細胞多細胞システムを構築する。この人工多細胞システムが外部環境変化に応答して形態が変化する様子を観察する。そして、進化しうるデバイス誘導型人工多細胞システムの構築に向けた足掛かりを築く。
A03班「分化制御」
機械・電子工学と分子生物学的な手法を融合することで、生体に類似した環境センシングとそれに応じたアクチュエーションが可能なバイオ・メカハイブリットデバイスを実現する。従来のバイオハイブリット組織とは異なり、生物の自発性を有効に利用することにより、「入力」と「出力」を生体組織に代替した環境に対応するデバイスを構築する。そして更なる融合を進め、進化デバイスをベースとしたハイブリットロボティクスを大きく発展させる基礎技術を確立する。